「どうだい?いい品揃えでしょ?プラモデルにモデルガン。トレカにラジコン、フィギュアも、ほら!」

男は、狭い店内に陳列してある商品を自慢げに説明してきた。

「・・・このフィギュアなんて良く出来てると思わない?店にないモノなら取り寄せもしてるんだ」
「それがたとえ銃でも・・・ですよね。天上院さん」

しまった・・・白々しく店の商品案内を始めたコイツに焦れて、ストレートに訊き過ぎたか?

「・・・ダーメ。十代くんにはダメだね」

えっ・・・?
ダメだって・・・。
天上院は、『ダメだね』と答えて黙ってしまった。
銃について触れているのに『ダメだね』って事は認めているのと同じ事じゃないか・・・?
同じ穴の狢同士。
探り合いは不要か・・・。

「天上院吹雪さんですよね・・・」
「そうだよ」

天上院に素性を確認するとあっさりと認めた。
微かに口元に笑みを見せながらも、静かにオレに視線を投げ掛けている。

「オレ・・・、丸藤亮さんの・・・」

オレは便宜的に名乗ろうとしたが天上院は挨拶を待たずに言葉を重ねてきた。

「十代くんでしょ。見れば分かるよ。亮の言ってた通りの女の子だね」

ちっ・・・!
さっきから馴れ馴れしく、十代くん、十代くんって。
そんな呼ばれ方は男にしか見えなかった子供の頃以来だ。
亮の言ってた通りって・・・カイザー、コイツにオレの事話していたのか?
カイザー・・・オレの事『十代』って呼んでたけど、コイツには『十代くん』って言ってたのかなぁ。
しかし、コイツに馴れ馴れしく呼ばれるのは気に食わない。

「天上院さん、『十代くん』『十代くん』って、カイザーがオレの事、そう呼んでたんですか?」

ニコニコと笑うその表情は見下されているようにも感じる。
オレは我慢できず、語尾に怒気が篭った。

「ううん。亮は『十代くん』の事、『十代』って呼んでた」
「だったら、なんで!」

何で、そんな呼ばれ方されなきゃならない。

「僕が、『十代くん』って呼びたいからそう呼んでるの!ははっ」

コイツ、何考えてるんだろう。
気に食わない・・・。
気に食わないが冷静さを失うとコイツの思う壺かも知れない。
もしかしたら何かの心理戦かもしれない。
『ヤツ』の条件を満たしているのは天上院だけ。
オレは冷静さを保つように注意しながら、質問を再開した。

「オレにはダメって。どういう意味ですか?」

まずは裏の顔について探ってみる。
『ダメ』って事は、扱いを認めてる証拠だ。
今更恍けたりはしないだろう。

「ダメダメ!暗いよ、十代くん!そんな死んだ魚みたいな目の人には譲れないね」

・・・・・・カイザーはOKでも、オレには譲れないって言うのか?
何故・・・?
別に仕事道具が必要な訳じゃない。

「裏で流してるのは、確かなんですね」
「うん。亮に聞いてるでしょ。何?急ぎの仕事でも入ったの?」


・・・・・・?


意外とオープンだな・・・。
いや、緊張感が足りないだけか。
銃刀法違反は決して軽い罪ではない。
まして、殺し屋への斡旋となれば、殺人幇助と判断されるだろう。
情状酌量なんて、ありえない。
たまたま知った入手ルートで小遣い稼ぎをしている感覚なんだろう。
良く見ると、頭がユルそうっていうか軽そうな顔しているし・・・カイザーはコイツのどこを信頼していたんだろう?

「亮もついてないよね・・・。恋人が出来て、これからって時に・・・」

っ?
恋人って・・・オレ?
コイツどこまで知っている。
カイザーは、どこまで話しているんだ。

「亮ってば、ここに来る度に十代くんの事嬉しそうに話してたなぁ」
「オレ・・・」

言葉を選ぼうとするオレを遮って、天上院から予期せぬ言葉が出てきた。

「事故っていうのが納得できなくて、僕を疑ってココに来た」


っ・・・!


「って事だよねー、十代くん」

全て、お見通しか。
でも、何故分かるんだ・・・?
疑われる理由を抱えているからじゃないのか。
オレが訪ねた理由は伏せて、カイザーの事件について問い詰めてみよう。

「知っていたんだな・・・カイザーの事」
「うん、風の噂でね」

風の噂か・・・。
付き合っている裏社会の住人はカイザーだけじゃないって、言いたいのか。
容疑者を増やして、オレを混乱させるのが狙い・・・?

「どんな時も亮は、生きた目をしてたなぁ」

天上院の様子を窺っていると勝手にカイザーについて話し始めた。

「命を奪う事に誇りを持つ・・・法で裁けない悪を退治するんだって。金目当てなら、出ない言葉さ。その信念を貫く為には、危ない依頼でも受けてしまう。割が合わないよ・・・。いつ、誰に狙われるか分からない。下手したら全てを失うそんな世界で誇りを持つなんて、悪を憎む信念がなくちゃ、務まらない。亮は・・・自殺なんかするヤツじゃない」


えっ・・・。
・・・。


「殺されたに違いないね。亮に恨みを持つヤツか・・・邪魔に感じたヤツにさ・・・」

カイザーは自殺なんてする人じゃない。
それは、天上院の言う通り。
カイザーに恨みを持つ者・・・邪魔に感じる者・・・。
天上院吹雪・・・お前が、カイザーを邪魔に感じたんじゃないのか?
ただ・・・その原因は?

「・・・で、僕と亮が仲違いを起こして僕が殺ったと思って来たんでしょ?十代くん!ははっ」

この余裕・・・白なのか・・・?
『ヤツ』の条件を満たしているのは天上院吹雪以外に見当たらない。


・・・・・・。


ブラフ・・・?
はったりをかましてる・・・だけ?
カイザーが一時的にでも信頼した奴。
簡単にボロを出さないだけ・・・か?
カマ掛けられたり、疑われたりは裏で生きるなら経験している筈。
・・・・・・オレたちの情報を得ていてカイザーが油断してしまう相手・・・。
いずれにしても、天上院が『ヤツ』なら動機については簡単に口を割りっこない。
天上院が『ヤツ』であるならば何らかの矛盾点を抱えている。
少しずつ、集めていくしかない。
オレが天上院を疑って訪れているのは気付いているようだし。
もう少し、ストレートに迫ってみるか・・・。

「あの日のアリバイって・・・」
「・・・それがないんだよねぇ。あの日は一日中、店にいたけど、お客さんは誰一人来なかったからさ。ははっ」

無難な答え・・・。
仲間にアリバイ操作を依頼していれば交友関係を漏らすだけ。
仮に殺しを誰かに依頼していれば、天上院は店で結果を待っていれば済む。
下手にアリバイがあると言えば、そこから辻褄が合わずにボロが出るかもしれない。
・・・他に何か手掛かりは・・・

「銃を流していたのは・・・カイザー以外に誰がいるんだ?」

まともに答えはしないだろう。
でも、それでいい。

「いないよ、僕は亮だけだ」

カイザーだけというのは・・・、本当かも知れない。
金目当てで誰にでも流していれば、もしもの時にカイザーだって影響を受ける。
カイザーは慎重な人だ。
そんなブローカーを信頼したりはしない。
カイザーがオレに話してくれた裏社会の唯一の人物。
専属だからこその信頼関係。
でも・・・天上院がカイザー以外の誰かに流していたなら・・・この信頼関係は成立しない。


・・・・・・。
・・・・・・・・・。


この線から潰していくか・・・。

「ま、僕が十代くんだったら確かに僕を疑うよね。ははっ」
「・・・ありがとうございました。失礼します」

有力な情報は入手出来なかったが、天上院の口から出た言葉を一つずつ検証していくしかない。
長居は不要だ・・・。

「あれっ、もう良いのかい?元気が出たら、また来てよ」
「・・・また伺います」

店を出ようとして振り返った時。
ふと視界に入ったサイドテーブルでオレは視線が止まった。

「・・・これ?」
「ん?あぁ・・・。携帯が普及してもマニアには人気があるんだよ」
「天上院さん・・・。これ、修理とかも出来るんですか?」
「うん。仕組みが分かっていればプラモデルみたいなモノだしね」


・・・。


店を出るオレの背中に天上院が声を掛ける。

『今度は亮の話を肴に一杯やろう』

でも、天上院に寄せる疑惑が強まるオレに返事をする余裕はなかった。
WH80CTM:小型、広範囲対応業務用無線機。
GX使用のインカムと同一機種。
天上院吹雪・・・表向きは子供から大人までを対象とした玩具屋を経営。
プラモデルから、モデルガン・・・客から依頼があれば取り寄せもする。
業務用無線機だって・・・。
『ヤツ』を満たす条件は充分過ぎる・・・。